アンクルトムの小屋

 『アンクルトムの小屋』という小説の名前と、それが奴隷の話なのだというおおよその概要は知っている人も多いはず。だがほとんどの日本人はその小説を読んだことはないだろう。
 実際アマゾンで検索すると、現在販売している『アンクルトムの小屋』はすべて、子供用に短くまとめられたものだからである。長編小説として書かれたこの小説の完全翻訳版はすでに絶版である。

 本書のストーリーはシンプルと言えばシンプルである。「奴隷の一生、悲惨な一生」である。主人公の心やさしいトムという初老の男が、厳しい仕打ちを受けながらもひたすらにキリスト教の精神を貫くというストーリーである。

 ローティが本書を子供用の教科書にせよ、という気持ちもわかる。痛みベースの共感は万人に共通だと「思われる」からだ。僕も読んでて心が痛かった。

 本書に特筆することがあるとすれば、ひたすらむごい仕打ちを受けながらも、神をあがめているトムじいさんの姿に、何か神々しいものを感じさせる、というものだろう。本書が子供に読まれるとき、彼らが感じるのはなんだろうか。奴隷云々という歴史に対する怒りだろうか。
むごい仕打ちに対する怒りと悲しみだろうか。ひたすらに神を信仰するトムじいさんの姿に、神々しいものを感じる、得体のしれないものへの恐怖と興奮だろうか。ぜひ最後の一点に感じ入ってもらいたい。

図書館で完全翻訳を借りてこよう。アマゾンで買ったものは子供用だったので・・

アンクルトムの小屋 (少年少女世界名作全集)

アンクルトムの小屋 (少年少女世界名作全集)

  • 作者: ハリエット・ビーチャー・ストウ,香川茂,Harriet Beecher Stowe
  • 出版社/メーカー: ぎょうせい
  • 発売日: 1995/02/01
  • メディア: 単行本
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アンクル・トムス・ケビン〈上巻〉 (1952年) (新潮文庫〈第299〉)

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アンクル・トムス・ケビン〈下巻〉 (1952年) (新潮文庫〈第278〉)

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※1
ただしトムじいさんの献身は、ひたすらに神への依存であるという批判は可能だろう。彼の他者に対する献身は、常に神を前提とした行為であるからして、フーコーが司牧権力を説明する中で論じたような「依存」の態度なのかもしれない。それはそれで正しいとも思う。

※2
これは検証していないので断定はできないが、当時のアメリカにおける奴隷は、本書が記述するような劣悪なものではないという反論が多くある。当時のアメリカでは労働力が必要であるから、奴隷を酷使して死なすよりも、それ相応の対応をしていたということだ。また、当時は奴隷よりも一般労働者の方が、自ら生計を立てる分、苦しい生活を送っていたとの反論もある。本書の作者のストー夫人が奴隷反対論を一貫して主張していたことを考えると、この点も納得できるだろう。