いじめと社会構造について

 以前内藤朝雄さんの『いじめの構造』を読んで大変感銘を受けた。今回の内藤さんと荻上チキさんの『いじめの直し方』は、小中学生に配慮した文体であるにもかかわらず、その内容は重厚かつ大人にこそ読まれるべきだと感じた。

いじめの直し方

いじめの直し方

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

 本書の主張はシンプルだ。「いじめは社会構造が原因。いじめの解決には、精神論ではなく政策論で対抗すべき」ということ。もちろん子供向けの著作であるから、政策云々について触れているのではなく、実践的な知識が書いているのだが、本書の意図は政策論への期待に開かれているのは明確だ。

 いじめの原因を個人に還元できるほど、社会はシンプルではない。小学生の状態から、すでに相いれない性格をもって自らの前に立ちはだかるエイリアン的存在は、残念ながら多い。そうだとすれば、どうすればエイリアンをスルーできるか?大人はこのスルー力をコミュニケーションスキルとして試されるのであれば、スルー力育成も学校で行うべき。しかし、教師によるスルー力云々の説明=教師の権力を使うよりは、クラス制度を解体した上で個人の主体的選択課程の中でスルー力を育成すべきだ。何より個人の自己信頼が自生的に形成されるのだから。

 学校教育が規律と教師の命令(禁止)権力だとするならば、本書はまさしく環境介入型の権力による、社会統治及び個人の成長プロセスの説明であるとも読める。

 子供も親も読むべき本。