アサンジの亡命について[追記あり]

■アサンジの亡命
 昨年のスウェーデンにおける性的暴行等の罪が問われているアサンジが、エクアドル大使館に亡命申請をした。現在ロンドンに拘束されているアサンジは、裁判で既にスウェーデンへの移送が決定している。
 スウェーデンに移送後はアメリカに移送→おそらく拷問の後殺される、と考えるアサンジは、欧州人権裁判所への訴えという最終手段に出るまでに、亡命を考えたようだ。今回の事件の概要は以下のブログが参考になる。
http://blog.livedoor.jp/takosaburou/archives/50669719.html
http://blog.livedoor.jp/takosaburou/archives/50669861.htmlロンドン警視庁「エクアドル大使館を出たらアサンジ氏を逮捕する」 #ウィキリークス : DON

 ちなみにエクアドルとアサンジには、彼が主演するロシアのRTという番組でエクアドル大統領にインタビューした縁がある。現在進行形のニュースだが、その他チュニジアも亡命を支援する旨が伝えられと同時に、仮に亡命が却下されれば、決められた場所で夜を過ごさなかったアサンジは違法とのことで、ロンドン当局にアサンジが捕まるのでは、との報道もある。
http://www.guardian.co.uk/media/2012/jun/21/julian-assange-ecuador-decision-asylum


■権力の象徴
 あまりブログを更新しない私がブログを更新したのは、この亡命がアサンジという反権力という象徴的「権力」の偏りが明確化しかねないからだ。
 アサンジ、というよりウィキリークスは、武力を持たない小規模組織として、アメリカ政府に動揺を与えた数少ない組織の一つである。国際舞台におけるプレーヤーとしてカウントされている、といってもいい(すでにそこまでの力はないとも言えなくもないが)。
 なぜか。ウィキリークスは2011年1月のインタビューで、米国の某大手銀行の膨大な内部資料を公開準備中であると発言した。するとすぐに当該銀行が米「バンク・オブ・アメリカ」であることが濃厚であるとの報道が世界中を駆け回り、翌日の「バンク・オブ・アメリカ」の株価が三・二%急落した。
 資料の公開は諸々の事情故に結局公開されなかったのだが(一説には、ウィキリークス元No.2のダニエルが、ウィキリークス脱退前後に情報を盗み廃棄したとの情報もある)、彼の一声がいかに権力を持ちえるかを示す好例である。権力を「行使」する側にも身を置くアサンジの存在は、すでに反権力の「アイコン」だ。

■各国の思惑
 なぜアサンジはエクアドルを選んだのか。もちろん先に述べた番組による縁があるからだろう。また、2010年に一度エクアドル政府から亡命の打診があったようなので、今回もエクアドルからの打診ではないかとの推察もできる。
 また、反米志向のエクアドルが反米のアサンジを引き込めば、アサンジの「アイコン」的権力が発揮され、自動的にエクアドルのスタンスをより明確に現すことができることにある。そして同時に、情報の透明性を訴えるアサンジを引き込むことは、エクアドルにとって、自国のクリーンさをアピールすることにもなるが故に、まさにエクアドルにとってアサンジの亡命は一石二鳥だ。

■中立性という幻想
 問題はエクアドルの政治的戦略ではなく、ウィキリークスの今後のスタンスにある。あらゆる国家・企業から中立であるために、彼らは特定の団体からの支援は受けず、募金のみで活動を継続してきた。アサンジがここでエクアドル政府のお世話になってしまえば、エクアドルおよびエクアドルに関連のある国家の不正は公開できない。そうでなくとも、アサンジに政治色が付与されることで、今後のウィキリークスに対する、中立性というイメージは消失し、偏った権力のイメージが定着する。すでに外交公電の頃から偏っているといえばそうなのだが、今回の事件は決定的である。
 ダニエルはウィキリークスの暴露本『ウィキリークスの内幕』の中で、彼の独裁的かつ恣意的な情報公開の方法に問題があることを指摘した。アサンジがよりインパクトのある、またアメリカに特化したリークを連発したことで、ダニエルはウィキリークスと手を切った。それはジャーナリズムとして中立ではないからだ。
 アメリカへの固執は、ウィキリークスという組織の中立性という方針を傷つける。もちろん最初からウィキリークスがそうだったわけではない。あまり知られていないが、過去にウィキリークスは中国関連のリークとして、検閲によって公開禁止になったチベット関連の画像、動画を公開している。また創立メンバーの中には、アドバイザーとして中国の民主化運動家の名も連ねられている(実際どの程度ウィキリークスと関係したかに関しては不明)。
 だが、亡命が実現すれば、間違いなくウィキリークスの中立性の看板は外され、またウィキリークス自体が自由な発言をできなくなる、少なくともそう世界から思われてしまう。これはウィキリークスにとって良いこととは思えない。
 もちろん、アサンジも切羽詰っていたのだろう。仕方がないといえばそうだ。しかし、形はどうあれウィキリークスの信頼性にヒビが入ってしまった感は否めない。
 ※なお、ブログ執筆時点ではまだ亡命の結果はでていません。ハラハラ。

[追記]
ブログを更新してから、早速宮前ゆかりさん(@MiyamaeYukari)さんから
以下私宛てのリプライでご指摘いただいた

「事実を正しく記録する方針は客観的だが、どんな世界を目指すかという点では決して中立ではない:アサンジ」(ウィキリークスの時代:後書き)


確かにアサンジは中立を口にしたことはありませんでした。私の意図する中立とは、どの国からの支援も得ず、自由に不正に対するリークを実行可能だということを「中立」としました。エクアドルに亡命が受け入れられれば、エクアドルとの「政治的借り」の関係から自由なリークができなくなるという意味です。
ということで、今回の事件でよりウィキリークスの政治的スタンスが明確になる、ということが確認されたわけです。
今回はちょっと言葉足らず&認識不足でした。ご指摘いただいた宮前さんに感謝申し上げます。
また他にもいくつかご指摘をいただきました。以下のリンクが参考になるとのことです。
http://wlcentral.org/node/2671