いくつかの書評

マガジン・マガジン社様からいくつか本をご恵投いただきました。

生涯不良

生涯不良

私は角川春樹という人物を、80年代にメディア・ミックス戦略で一気に時代を駆け抜けた人物としか認識していなかったのですが、いろいろな意味ですごい人だと認識を改めました。

本書は角川春樹とその弟子による対談を収録したものである。弟子との対談であるが故に、角川春樹の難解な思想を解きほぐし解説することが上手くできていると感じた。

角川春樹という人物は、詩や思想、宗教に至るまで多くの現象に興味がある。そのひとつひとつの要素が彼の中でどのように折り重なったのか。彼の思想の複雑性を想うにつけ、その点を確認したいという欲求に駆られた。

角川は自ら2005年に起きるはずだった地震を止めたと公言しており、本書でもその点について発言している。
彼の発言はおそらく本気で述べている。私はこの発言の内容そのものには言及する気はない。しかし、一人の大事業を成してきた人間の(ある意味トンデモ)発言に潜む彼の思想の複雑性。そこに私はただただ興味が惹かれるのであった。ぜひ本の内容だけでなく、内容を越え出てあまりある彼の思想について、読者個人が思索に耽ることをオススメする。


こんなアホでも幸せになりたい (SUN MAGAZINE MOOK)

こんなアホでも幸せになりたい (SUN MAGAZINE MOOK)

こちらも大変個性的な本というかマンガ。

著者自身の生涯を振り返るかたちで展開される本書は、まずそのハードな内容が目にとまる。
著者の生い立ちや、自身がアスペルガー症候群ADHD(注意欠陥多動性障害)を抱えていることが本書を読むとわかるのだが、そうした内容は作品を暗くするどころか、このヘビーな内容はむしろ笑いのネタとして示されている。

本書やその他の著書について、「障害を患っていながらもがんばっている人」だと記述する書評が目立つ。私見では、本書はそのように読むべき本ではない。障害や生い立ちの不幸に一切かかわらず、著者の行動とそのタイトル「こんなアホでも幸せになりたい」との差異に注意して読むべき本である。そして笑いも追加(笑)。

著者の明け透けで大胆で破天荒な行動はとても面白い。しかし著者は「幸せ」をどのように求めているのだろうか?表紙にはウエディングドレスを着た著者の絵が描かれている。彼女は結婚したいのだろうか?

本書のラストを飾るマンガには、彼女の実存が垣間見れる話が収録されている。破天荒な彼女の行動と、しかし行動とは裏腹に潜む彼女の幸せ願望。このアンビバレントな感覚をどのように読者は処理すべきなのだろうか。

病気よりも、この点に注意して本書を読んでみた時に、人の幸せについて読者は考えさせられるにちがいない。

ご恵投いただいたマガジン・マガジン社様、ありがとうございました。実はもう一冊ご恵投いただいた本があるのですが、書評はまた次回したいと思います。