史上最強の哲学入門

史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK)

史上最強の哲学入門 (SUN MAGAZINE MOOK)

いわゆる哲学入門書だが、予想以上に興味深い内容。
カバーイラストを書いている板垣恵介は、チャンピオンで連載している『バキ』(格闘漫画)の作者。なので表紙はゴツイ絵(笑)。

内容も『バキ』同様に、哲学者を格闘家として扱い、各哲学者の主張を得意技として表している(プラトンなら、得意技「イデア論」)。これもなかなか導入としては面白い試み。

内容も、「真理の『真理』」や「国家の『真理』」などに分け、テーマごとに哲学者を登場させる。それによって教科書的な哲学の説明にとどまらず、そこかしこに各哲学者の主張の特徴を見出しやすくする配慮もなされていると感じた。

ここまで本書の特徴を記述してきたが、ここからは本書を読む上で注意・注視すべき点を挙げたい。それは、哲学の流れに一定の反復リズムがあることだ。

一章で言えば、プロタゴラスからデリダまで、哲学者の主張は常に対立構造の中で徐々にその理論を精緻にしていること。にもかかわらず、その対立は常に解決することなく、永遠と議論が終わることなく続いていくことが確認できるだろう。

これは、「だから哲学をしても意味がない」ことを意味しない。むしろ、哲学することは、人が生きていくことに等しい。「これでいのか、いけないのか」同じような悩みを持ち、常にそのまわりでぐるぐると頭をうならせているのが人間ではないか。哲学の歴史は、人の歴史と同じ構造を持つように私は思う。

だからこそだ。本書は、哲学とは、それを学ぶことで自分の実存が満たされる類のものではないことを我々に教える。しかしその点は絶望的なものではない。むしろ、答えがないという点がこそ、哲学を続けること=人生を続けることにいくばくかの影響を与えるということもまた、本書が教える点である。世界が理解できないことを知るという経験が、逆説的に人を勇気づける。

本書は、哲学を愛好する人間には、哲学のできることとできないことを教える。他方、哲学に興味がない人間には、ある種の「生き方=スタイル」に影響を与えるのではないか。本書からはそうした哲学のリズムを感じさせる。このリズムに注意しながら本書を読めば、本書が伝える知識や興味を、読者自身が発展させる仕方で理解することができるように思う。


今回も本書はマガジン・マガジン社様からご恵投いただいた。感謝感謝。

追伸
著者の飲茶さんのブログを発見したのでリンク
http://blog.yamcha.jp/