読書感想
日曜のイベントに備えて、以前読んだ速水健朗さんの『ケータイ小説的。』を読みなおしてみました。正直以前読んだときにはそれほどピンと来なかったのですが、今回改めて読み返して、非常に多くを学びました。
レイプや不治の病という実際にそう起こらない記号的な事件に対して、脊髄反射的に涙を流す若者、というような批判がケータイ小説には多く寄せられる一方で、速水さんは読者である多くの女子高生達と浜崎あゆみに接点を見出す。それは、彼女らの反応が脊髄反射であるか否かという感性の問いに対して、本書は彼女らの置かれている状況を丹念に調べているが故に、通常の文芸批評的な解釈とは異なる見解を引きだしているのだと思われる。
しかしとりわけ印象深かったのは、タイトルにもある通りの「再ヤンキー化」問題である。地方のヤンキーは東京を拒み、徹底して地方にこだわる。そこには浜崎あゆみや現代のひきこもりに通じるトラウマや自己承認、あるいは「自分探し」が求められていない、という構造を本書は見出しているのだ。ヤンキー共同体では、自分探しに埋没し、ハイテンションな自己啓発をもって終わりのない競争ゲームに半ば強制参加させられる必要はないのだ(もちろん彼らの経済的側面に関して問題がないわけではない)。
これは宮台先生が95年に提示した「まったり革命」と、それを代表するコギャルが後にメンヘル化したという90年代までの社会観を引継ぎ、00年代版の「まったり革命」ないし本書の言う「ヤンキーのレコンキスタ(聖地回復)」を提示したとも言える。そしてもちろんこの構図は、宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』における郊外論とも共通点があるように思われる。
ただし本書は単にヤンキー再評価に終わるわけではないことに注意が必要だろう。ヤンキー共同体の回復はあくまで様々なコミュニティの中の1側面である。ケータイ小説読者の感性には、ヤンキー的感性と同時に浜崎あゆみ的(承認欲求的で自分探し的)な感性が同居している。事態は常に複雑に絡み合っているのだ。
いずれにしてもケータイ小説から社会を読み解く上で、本書は非常に重要な視点を提供していると思われます。問題解決を急ぐよりも、問題を認識することこそ、まずもって我々に必要とされているのだなあ。
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